粉雪2-sleeping beauty-
「…ならもぉ…俺のために生きてくれよ…。
あの人のことなんか忘れて…。
俺だけのために生きろよ!!」


『―――ッ!』



俺はこの時、一番言ってはいけない台詞を言ったんだ…。


千里の顔は、涙でグチャグチャになっていた。


締め付ける胸は苦しくて、溢れ出してしまいそうだった。



『…マツは…何にもわかってない…。』


唇を噛み締めた千里は、低く呟いた。


そして震える声で、言葉を続ける。


『…あたしから隼人を取り上げないで…。
隼人の温もりを忘れそうで怖いの…!
毎日毎日、少しずつ消えていくの…!
…もぉこんなの…耐えられない…!』


「―――ッ!」



その時、やっと気付いたんだ…。


俺はずっと、隼人さんを忘れて欲しいと願っていた…。


だけど千里は、忘れることが怖かったんだ…。



『…マツのこと大好きだから…。
マツが独りになっちゃうから…。
そんなことさせられなかった…。』


「―――ッ!」


『…ずっと…マツの為に生きてきたのに…。
あたしが居るから…マツは幸せになれないんだよ…。』



…俺の為に…


生きていたのか…?



『…あたしは一生“隼人の女”で居るって誓ったのに…。
マツのことばっか考えちゃう…。
…だから隼人に嫌われたんだ…。』



苦しすぎて…


千里の言葉の意味なんて、全然わかんなくて…



「…俺のこと…責めろよ…。
俺が悪いなら、俺を責めろよ!!」


『…マツの所為じゃないよ…。
あたしが全部…悪いんだよ…。』



それでもまだ、千里は自分を責めるんだ…


誰かの所為にすれば…


俺の所為にすれば良いのに…。


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