粉雪2-sleeping beauty-
もぉ、引き返せないんだと悟った。


どうすれば、千里は傷つかずにすむだろう。


どうすれば、千里は幸せになれるだろう。


だけど俺は、あの人とは違う方法で、千里を幸せにしてやりたいと願ってきた。


あの人は、千里を手に入れたから、千里は壊れてしまったんだ。


だからずっと、手に入れないことで壊さないようにしてた。


俺だけが苦しめば良い。


ずっと、そうやって思ってきた。


もぉ、あの方法しかないんだな―――…






「…なぁ、千里…。
俺に、時間くれない…?」


『…え?』


涙を溜めた大きな瞳を指で拭いながら、少しだけ口元を緩ませた。


そんな俺を、千里は困惑するような瞳で見上げる。



「…1週間後、隼人さんの命日の日まで、俺に時間ちょうだい?」


『…マツ…?
何する気…?』


俺の服の裾を掴みながら、千里は声を震わせた。



「…お前は何も心配するな…。
全部カタつけて、お前を幸せにしてやるから…。
それまで待ってろよ…。」


『―――ッ!』


瞬間、千里の瞳は、大きく見開かれた。



『…ねぇ、何するの?!
隼人もそうやって言ってた!!
…待ってたのに…死んじゃったんだよ…?』


「言ったろ?
俺は、あの人とは違うんだ…。」


俺の服を掴む手に力を込めながら、千里は子供みたいに首を振った。



『…そんなの信用出来ないよ!!
死にに…行くの…?』


「…俺が死ぬわけねぇだろ…?」


だけど千里は、肩を震わせ続け、涙を流し続けた。


そんな千里を安心させるように、ただ微笑みかけた。


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