粉雪2-sleeping beauty-
―コンコン!…
『酒井さん。
入りますね。』
―ガチャ…
『ご気分いかがですか?
コレ、検温してくださいね。
それから、先生が来てくれますから。』
入ってきた看護師は、体温計を渡しながら、少しだけ眼鏡を下げて微笑んだ。
ふくよかで物腰の柔らかい看護師に安心し、俺は少しだけ会釈をする。
「…ルミ呼んできてやるから。」
入れ違うように、その言葉をまだ俯いている千里に残し、部屋を出た。
シンと静まり返った病院の廊下の肌寒さに少しだけ身を縮め、
襲ってくる疲労感と睡魔を噛み殺した。
辺りを見回すと、薄暗い廊下の突き当たり、
自動販売機とついていないテレビのある向かいのソファーに、
ポツンとルミの姿がある。
響く俺の革靴の音に気付いたルミは、こちらに顔だけ向けて力なく笑った。
「…嵐と真鍋は…?」
『…嵐さん、お店戻ったよ。
終わってからまた来るって。
真鍋さんも奥さん予定日近いし、心配だから帰らせた。』
「…そっか。」
自動販売機にお金を入れ、ホットのコーヒーを選んでボタンを押す。
ガシャッと重い音が響き、それを合図にコーヒーを取り出した。
ルミの横に腰掛け、プルタブを開けると、小気味良い音が鳴る。
流し込んだコーヒーは熱くて、
たったそれだけのことなのに、何故か泣きそうになった。
『…ママ、もぉあんなことしない…?』
「俺がさせねぇから。」
悲しそうな顔で聞いてくるルミに、少しだけ口元を緩ませた。
力なく頷いたルミは、立ち上がり、自分の持っていた缶をゴミ箱に入れ、
“ママに会いに行ってくる”と言って、病室の方に足を進めた。
裏切ってごめんな、ルミ…。
だけど俺がこれからすることは、誰にも理解してもらおうなんて思ってねぇから…。
命日の日まで、千里を支えてやってくれ…。
ルミの後ろ姿を見送りながら、唇を噛み締めた。
振り払うように流し込んだコーヒーはやっぱり熱くて、
雪のように冷たくなった指先を温める。
『酒井さん。
入りますね。』
―ガチャ…
『ご気分いかがですか?
コレ、検温してくださいね。
それから、先生が来てくれますから。』
入ってきた看護師は、体温計を渡しながら、少しだけ眼鏡を下げて微笑んだ。
ふくよかで物腰の柔らかい看護師に安心し、俺は少しだけ会釈をする。
「…ルミ呼んできてやるから。」
入れ違うように、その言葉をまだ俯いている千里に残し、部屋を出た。
シンと静まり返った病院の廊下の肌寒さに少しだけ身を縮め、
襲ってくる疲労感と睡魔を噛み殺した。
辺りを見回すと、薄暗い廊下の突き当たり、
自動販売機とついていないテレビのある向かいのソファーに、
ポツンとルミの姿がある。
響く俺の革靴の音に気付いたルミは、こちらに顔だけ向けて力なく笑った。
「…嵐と真鍋は…?」
『…嵐さん、お店戻ったよ。
終わってからまた来るって。
真鍋さんも奥さん予定日近いし、心配だから帰らせた。』
「…そっか。」
自動販売機にお金を入れ、ホットのコーヒーを選んでボタンを押す。
ガシャッと重い音が響き、それを合図にコーヒーを取り出した。
ルミの横に腰掛け、プルタブを開けると、小気味良い音が鳴る。
流し込んだコーヒーは熱くて、
たったそれだけのことなのに、何故か泣きそうになった。
『…ママ、もぉあんなことしない…?』
「俺がさせねぇから。」
悲しそうな顔で聞いてくるルミに、少しだけ口元を緩ませた。
力なく頷いたルミは、立ち上がり、自分の持っていた缶をゴミ箱に入れ、
“ママに会いに行ってくる”と言って、病室の方に足を進めた。
裏切ってごめんな、ルミ…。
だけど俺がこれからすることは、誰にも理解してもらおうなんて思ってねぇから…。
命日の日まで、千里を支えてやってくれ…。
ルミの後ろ姿を見送りながら、唇を噛み締めた。
振り払うように流し込んだコーヒーはやっぱり熱くて、
雪のように冷たくなった指先を温める。