粉雪2-sleeping beauty-
荷物を持ち、足早に千里の部屋から出た。


ルミを家に送り、来た道を引き返すように一人で病院に戻る。


重いバッグは、だけど俺の心よりはずっと軽いのだろう。


なるべく靴音を響かせないように、静かに病室まで歩いた。




―ガチャ…


いつの間にか電気が消された病室で、千里の姿を確認してため息をついた。


触れた頬は少し温かくて、

反応したように少しだけ眉をひそめる千里に自然と口元が緩んだ。


足元にバッグを置き、丸椅子に腰掛ける。


優しく握った左手の手首には、痛々しくも包帯が巻かれ、

全てが現実であると思い知らされる。


細くて白くて長い指には、いつものように指輪が二つ輝いている。



俺の決断なんて、どちらに転ぶのか分からない。


千里が答えを出した時、全ての運命が決まる。


きっと待っているのは、俺が想像している通りの結末だろう。


だけど俺は、今度だけは逃げねぇから…。



「…愛してるんだ、お前のこと…。
絶対、幸せにしてやるから…。
それまでは頼むから、生きててくれ…。」



悔しくて、悲しくて、そして寂しかった。


笑いあった日々はまるで遠い昔のことのようで、

ついこの前なのに風化してしまいそうになる。


俺がこんな風だから、千里の中の二年は、どれほど長かっただろう。


お前の気持ち、少しだけだけどわかるんだ…。


俺だってお前が居ない間、お前の面影を探し、お前のことを思い出すばかりだった。


俺は生きてこうして会えるけど、隼人さんは死んでしまったんだもんな。


忘れさせようとして、ごめん…。


俺はお前の苦しみに、何も気付いてやれなかった…。


お前の出す答えに、俺は何も言わないから。


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