粉雪2-sleeping beauty-
『―――マツ!
起きろよ!』


「―――ッ!」


ゆっくりと目を覚ますと、何故か嵐のドアップがあった。


声を上げようとした瞬間、視界の端にまだ眠る千里を発見し、

言葉を飲み込んで嵐を睨み付けた。



『…お前、ここで寝てたの?』


丸椅子に腰掛け、千里の手を握ったままベッドにうつ伏せたように寝ていた俺に、

嵐は小声で聞いてきた。


少し恥ずかしくなり、握っていた手をゆっくりと離す。



「…つーか、体痛いし。」


『…そりゃそーだろ。』


背伸びをする俺に、嵐はため息をついた。


窓の外は冬だからなのか、まだ陽は昇りきっていない。


薄暗い病室には、肌寒さが広がり、思い出したように身震いした。


あくびを噛み殺しながら時計を見ると、朝の5時だ。


そんなことに、ため息をついた。



「…俺、ほとんど寝てねぇじゃん…。」


立ち上がり静かに部屋を出る俺の後ろを、嵐も同じように続く。


ムチウチの治りきっていない体は、睡眠不足と疲労も重なり、軽く悲鳴を上げていた。


音を立てないようにドアを閉め、廊下の突き当たりのソファーに向かう。




『…あれから、どーなった?』


ブラックの缶コーヒーを差し出しながら、嵐は聞いてくる。


微糖じゃないことに少し腹を立てながら、何も言わずに受け取った。



「…さぁな。
千里次第っつーか?
まぁとりあえず、約束しといたから生きてるだろ。」


他人事の様に言いながら、プルタブを開け、苦い茶色を流し込んだ。


口の中に広がる味に眉をひそめ、言葉を続ける。


「…ちょっと俺、これから忙しくなるから、暇な時は相手しに来てやれよ。
あと、見張っといて。」


『何する気~?』


「…まぁ、色々だよ。」


言葉を濁し、代わりにコーヒーを流し込んだ。


< 298 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop