粉雪2-sleeping beauty-
「…“愛人”なんか、最初からいなかったんだよ。
そこに書かれてる女…“安西香澄”は、利用されてただけなんだ。」


『―――ッ!』


「…小林隼人には、千里が居ればそれだけで良かったんだ。
だから逃げる為に、その女を利用した。
だけど結局、利用した筈だった女に殺されたんだけどさ…。」



本当に、皮肉な話だと思う。


一体どこから狂ったのだろう。


全てが、上手く行くと思ってたのに…。



『…意味わかんねぇよ…。
つーか、分かるように説明しろよ!!』


俺は天井を仰ぎ、吐き出した煙の行き着く先を見つめた。


辿り着く場所なんて、どこにもない。


まるで、俺達みたいだ。



「…あの二人は、ただ愛し合ってただけなんだよ。
お互いが居れば、他に何もいらなかった。
千里だって、金が欲しい訳じゃなかったんだよ。
毎日毎日、隼人さんの帰りだけを待ち続けたんだ。
…あの広いマンションで、独りっきりで…。」



アイツの気持ちを考えると、胸が苦しくなる。


俺達のやってきたことは結局、女一人を幸せにすることも出来なかったんだ。



「…あの二人は、最初から最後までお互いしか見えてなかった。
お互いを守る為に、自分を犠牲にし続けたんだ。
…だから俺は、見守ってやることしか出来なかった…。」



言ってて、嫌になってくる。


言葉にすれば本当に、俺の入る隙間なんてないようで。



「…全ての発端は、一人のポン中が捕まったことから始まるんだ。
多分そこから…狂い始めたと思う…。」


『―――ッ!』


「…俺達の後ろには、獅龍会…河本がついてたんだ。
危ない仕事まわす代わりに、多少のことには目を瞑ってくれてた。」


深いため息をついた。


あの薄ら笑いを思い出すと、未だに胸がザワつく。


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