粉雪2-sleeping beauty-
「…あの女もな、利用されてるだけとは知らずに、隼人さんを愛してたんだ。
千里の男だってことも知ってた。
千里に宣戦布告までしたんだ。
だけど千里は、それに耐え続けた。」


『―――ッ!』



あの時千里は、どんなに惨めで悔しかったろう。


だけど俺は、千里の為だからこそ、何も言えなかったんだ。


全てにカタがついた時、二人は幸せになれると信じてたから。



「…やっと全ての情報が揃い、河本を狙った。
あの時アイツが言ってたろ?
俺達は外人を使い、あの男を殺そうとした。
だけど、すぐに失敗に終わったよ。
まぁ、あんなんで殺せるなんて思ってはなかったけど。」


『―――ッ!』


「…あの夜二人が、何を話したのか知らない。
だけど千里は、隼人さんと生きる道を選んだんだ。
本当は隼人さんも、それを望んでた。
子供おろさせて、他に女作って…。
その罪を償う為に、千里と別の街で、イチからやり直すつもりだったんだ。」



何で千里は、別の道を選んでくれなかったんだろう。


あの時俺が、“信じて待て”って言わなきゃ、

こんなことにはなってなかったのかもしれない…。


隼人さんが手放してくれてれば…。



「…いよいよ飛ぶって日に、千里が最後に寄ったのは働いてたファミレスだった。
昔、安西香澄と一緒に働いてた店だ…。」


『―――ッ!』


「…待ち受けていた安西香澄は、千里を狙った。
って言っても、脅すつもりだったらしいけど…。
だけど隼人さんは千里を庇い、代わりに刺されて死んだんだ…。」


瞬間、ルミは堰を切ったように涙を零した。


言葉にならない表情は、一層事務所の空気を張り詰める。



「…だから千里は、未だに自分を責め続けてる。
全て隼人さんの、自業自得なのに…。」


『―――ッ!』


3人の顔なんて、見ることが出来なかった。


苦しく締め付けられる胸の痛みに、耐えることしか出来ない。


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