粉雪2-sleeping beauty-
「…その代わり、条件がある。」


煙草を灰皿に押し当て、再び顔を上げた千里に口元を緩ませた。


紡ぐ言葉は一番怖くて。


だけどそれだけを、ただ願い続けてた。



「…明日になるまで…日付が変わるまでは、お前は俺の女だ。」


『―――ッ!』


「…お前と生きた証が欲しいんだよ。
本当は俺だって、お前なしじゃ生きられねぇんだよ…。
だから、俺にちょうだい…。」



声が震えて。


滲み始めた視界の真ん中で見える千里の顔は、大粒の涙が伝っていた。


ただ見られたくなくて、だけど顔を覆う手は震えていて。


答えを聞くことが、ただ怖かった。


だけど、聞かなきゃいけなかった。



「…お前が俺を受け入れるなら、俺はお前をあの人のところまで連れてってやる。
今度は確実に、死ぬことが出来る。」


真剣に見据えた千里の瞳は、見開かれたまま揺れていた。


吸い込まれそうで、だけど、それでも良かった。


「…だけどもし、ちょっとでも“死にたくない”って思ったら、今度こそ力ずくでお前を奪う。
俺と生きることを選んでくれたら、二度とあの人を思い出すことがないくらいに幸せにしてやるから。
どうするかは、お前が決めろ。」


『―――ッ!』


張り詰める空気は、棘でも刺さっているように痛い。


沈黙がどれくらいの長さかもわからないほど、俺はただ待ち続けた。


千里は今、何を想っているのだろう。


俺とあの人、どっちのことを考えているんだろう。


俺はちゃんと、伝えることが出来ただろうか。


千里にちゃんと、伝わることが出来ただろうか。


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