粉雪2-sleeping beauty-
『…ありがとね、マツ…。』


顔を上げるとそこには、いつものように優しく微笑む千里の顔があった。


穏やかで、だけど長い睫毛は悲しそうに影を落としていて。


『…あげるよ、マツに。
マツはあたしの、この世で最期の男だよ。』


「―――ッ!」



それが、お前の答えだな。


きっと俺達には、最初からこの答え意外になかったんだ。


分かってたはずなのに、何でかただ、力が抜けた。


これほど残酷なことはないはずなのに…。


なのにちょっとだけ、安心してしまったんだ。



「…それで…良いんだな…?」


俺の問い掛けに、千里はゆっくりと頷いた。



いつの間にか千里の頬は温かくなっていて。


なのに俺の手は、馬鹿みたいに震えてた。


目が合うとはにかんだように笑う千里に、ゆっくりとキスを落とす。


初めて触れた唇は柔らかくて。


ずっと、欲しかったんだ。


だけどこんな形でしか手に入らなかったのは、ちょっとだけ悲しかった。


ただ壊したくなくて、どうして良いのかなんてわからなかった。



『…恥ずかしいじゃん…。』


口を尖らせた千里は、真っ赤になって俺を見上げる。


そんな顔にやっと、俺も笑うことが出来たんだ。



今までずっと、隼人さんが言う“可愛い”の意味が分からなかった。


だって千里は、俺の中では“綺麗”だとしか思えなかったから。


だけど、こんな顔するんだな…。


その時初めて、俺は気付いたんだ。



なぁ、千里…


お前は最高に綺麗で、そして最高に可愛かった…。


本当に、最高の女だったよ。


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