粉雪2-sleeping beauty-
「…てゆーか、腹減った。
何か作ってよ。」


『ハァ?ありえない!
てゆーか、冷蔵庫に何か入ってるの?』


安心したようにソファーに身を沈めた俺に、

千里は先ほどの顔が嘘であるかのように眉をしかめる。


“さぁ?”と答える俺にあからさまにため息をつき、一人千里は、冷蔵庫に向かった。



『…何にもないんですけど。
流石のあたしも、ミネラルウォーターとビールじゃご飯は作れないよ?』


「…仕方ねぇな。
じゃあ、どっか食いに行くか。」


顔だけこちらに向けた千里は、相変わらず嫌味タップリだ。


ため息をつき、仕方なく立ち上がった。


そんな俺の横に、パタパタと千里の足音が近づく。



『…マツは、人の心配する前に自分の体のこと気にしなよ。
あたし居なくなっても、ちゃんとご飯食べるんだよ?』


「…心配しなくても、ムショ入ったら嫌でも太るから。」


『―――ッ!』


瞬間、千里は悲しそうに目を伏せた。



「…そんな顔すんなよ。
そんな顔させたい為に、言ってるんじゃねぇから…。」


千里の髪を手櫛で梳きながら、再びその瞳を見つめた。


「…今日だけは、俺の隣で俺のことだけ考えて笑ってりゃ良いから。」


『―――ッ!』


消えそうなほどか細い声で、千里は“ごめん”と呟いた。


向けられた笑顔は、少しだけ悲しそうに見える。



そして左手の薬指に重ね付けされた指輪を取り、机の上に置いた。


同じように小さな十字架のネックレスを外し、ペアのフランクミューラーも外した。



「…そんなとこ置いといたら、失くすぞ?」


『…良いんだよ。
どっちみち、持っていけないでしょ?』



本当にコイツは、俺の女で居る気か…。


ホントお前は、最高だな。


そーゆーことするから、手放したくなくなるんだよ。


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