粉雪2-sleeping beauty-
「行くぞ。」


そう言って左手を伸ばす俺を、千里の右手が捕まえる。


離さないようにしっかり捕まえた手は、やっぱり細かった。



『…意外だね。
マツって手とか繋ぎたい子なんだ。』


クスッと笑い、千里は俺を見上げた。



「別に~。
誰かさんが迷子になったら困るだろ?」


『…そーゆーことにしといてあげるよ。』


笑いを堪えた千里を呆れ半分で見つめ、部屋を出た。


きっと俺達は、おかしな関係なんだろう。


だけど今は笑いあってるから、それだけで良かった。


再びこの部屋に戻ってくるとき、俺達はどうなっているんだろう。


相変わらずヒールを履いてる千里は、背伸びしているみたいで。


それでもずっと、踏ん張って生きてきたんだもんな。


だから今日だけは、笑わせてやりたかった。




『…今日、どこに行ってたの?』


助手席で煙草を咥えた千里は、横目で俺を捕らえた。



「…クソ男に宣戦布告して、嵐と真鍋とルミにお別れ言って。」


『―――ッ!』


瞬間、千里は悲しそうに目を伏せた。


吐き出す煙は、車の中を支配する。



『…あたしも…お別れ言いたかった…。』


ポツリと呟く千里に、俺は笑いかける。



「…やめとけ。
お前の場合、引き止められたら何も言えないだろ?
何かあるなら、手紙でも残してやれよ。」


『―――ッ!』


何かを考えるように俯いた千里は、ゆっくりと顔を上げた。



『…手紙なんか嫌だよ。
あんなものがあるから、縛られるんだよ。』


「―――ッ!」



嘘つけ…。


手紙なんかなくなって、お前は隼人さんに縛られるくせに。



「…良いよ、もぉ。
俺が代わりに言っといたから。」


『…そう。』


千里の言葉は、たったそれだけだった。


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