粉雪2-sleeping beauty-
『…ねぇ、マツ…。』


「…ん?」


繋いだ手を少しだけ強く握り、千里は不安そうに口を開いた。



『…ルミちゃんね、昔、マツのこと好きだったんだよ?』


「―――ッ!」


突然の言葉に、目を見開いた。



「…何だよ、それ。
初めて聞いたんだけど。」


『…マツはあたししか見てなかったから、気付かなかっただけだよ。』


その言葉に、俺は何も言い返せなかった。


だけど言われた通り、本当に気付かなかった。



『…ルミちゃん昔、レイプされたんだ。
誰か分からない男の子供産んで、育ててるの。』


「―――ッ!」


本当に、初めて聞くことだらけだった。


キツク握った手から、千里の不安が伝わってくる。



『…あたしがお店早く閉めてたのは、マツと飲みたいからだけど、龍太郎の為でもあったんだ。』



“龍太郎”ってのは多分、ルミの子供の名前だろう。


ルミの背負う過去もまた、大きくて深いものだった。


そんなルミが飲み屋で働いているなんて、残酷な話だ。



『…嵐はね?
高校生の妹と二人で暮らしてるんだよ。』


「…アイツが…?」


俺の問いに、“そうだよ”と言いながら続ける。



『…高校の学費も払ってあげて。
妹が社会人になったら、やっと嵐は解放されるんだって言ってた。
その時やっと、自分の人生が歩けて、自分のお店をオープンさせるんだって。』


「…そっか…。」



だからアイツ、あんなに面倒見が良いのか…。


結局あいつらは、俺には何も話さなかった。


全部、千里にだから話したのだろう。


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