粉雪2-sleeping beauty-
『…ねぇ、マツさぁ…。
あたしは―――』


「聞けよ、千里。」


千里の言葉を遮り、その瞳を真剣に見据えた。


瞬間、驚いたように千里は、戸惑いの色を浮かべる。



「お前、すげぇ綺麗だよ?」


『―――ッ!』


「…それ、ウエディングドレスの代わりだから。
言ったろ?俺が隼人さんのところまで手ぇ引っ張ってやるよ。」


目を見開く千里に、だけど俺は続けた。


「…ヴァージンロードって、父親に手を引かれながら過去を振り返るって誰かが言ってたんだ。
そして父親が男に娘を託す儀式が、結婚式なんだよ。」


『…でもマツは、父親じゃないよ?』


「お前、父親いねぇじゃん。
だから俺が、代わりで良いんだよ。」


『―――ッ!』


俯いて涙ぐむ千里に、俺は笑い掛けた。



「お前は、世界で一番綺麗な花嫁だ。
だから、泣くんじゃなくて喜べ。」


『―――ッ!』



本当に、愛しかった。


だけどお前は、最初から俺のじゃないんだよ。


これからお前は、あの人のところに行くんだ。


だったら昔以上に綺麗になって、あの人に悔しい思いをさせてやりたかった。


“アンタがいなかった間に、千里は俺の隣でこんなに綺麗になったんだぞ”って。


“だから二度と、離れるようなヘマすんじゃねぇぞ”って。


それくらいしか、俺には出来ないから。



『…ごめんね、マツ…。』


「…“ありがとう”だろ?」


『―――ッ!』


悲しそうに笑った千里は、涙を拭いながら“ありがとう”と告げた。



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