粉雪2-sleeping beauty-
「…ビデオ観ねぇの?」


キッチンで何かをしている千里に向かい、声を掛けた。



『…ご飯だけ炊いときたいし。』


「ふ~ん。
つーか、何食わしてくれんの?」


『オムライス。』


その言葉に、噴出しそうになった。


俺は立ち上がり、対面式のキッチンを覗き込む。



「…最期の最期でソレですか?」


『…だって、マツ酔っ払って前に言ってたじゃん。
“お前のオムライスが実は一番好きなんだ”って。』


「…言ったっけ?」


『言った。』


少し恥ずかしくなりながら、口元を隠すように煙草を咥えた。



何でコイツは、そんな些細なことを覚えているんだろう。


目が合った千里は、やっぱり笑いかけてくれて。


ただそれだけのことが嬉しくなって。



「…手伝おうか?」


『えぇ?!ってか、やだよ!』


目を見開き、驚いたように千里は声を上げる。


『てゆーか、見ないでよ!』


「…何で?」


『見られながらは嫌なの!
それに、男はキッチンに入ってきちゃいけないんだよ?』


口を尖らせながら、千里は言う。



「…そんなもん?」


『そんなもん。』


“だからアッチ行ってて!”なんて睨まれて、仕方なく俺はソファーに戻る。


だけど何だか変に緊張して、煙草を吸うスピードが早い。


タイムリミットまで、あと6時間。


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