粉雪2-sleeping beauty-
『…クリスマスが日曜って、何か嫌だな…。』


パスタを食べながら、千里は少しだけ口を尖らせた。



「…何で?」


『だって、人混みになるじゃん。』


「…そっか。」


店内で笑う男女二人組みのうち、

カップルじゃないヤツラを探せと言う方が難しいほど、甘い熱気に包まれている。


外は寒いのに、この店の中だけ異常に暖房で温められ、

カップルの放つ熱気と共に、むせ返りそうだ。




『ねぇ、マツ!!
ケーキ頼んで良い??』


「…良いよ。」


食は細い癖に、いつもデザートは絶対に食べようとする。


俺的には、そっちが太る原因だと思うんだけど、

怒られるのも嫌だから、いつも何も言わない。


それにまぁ、食べてる分には安心だ。




『―――スイマセン!
ガトーショコラお願いします♪』


近くに居た店員に声を掛けた。



『かしこまりました。』


若い男の店員が短く言う。



多分コイツから見ても、俺達は“カップル”とかに見えているのだろう。


だけど、実際はそんな甘い関係じゃない。



ゆっくりと煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら窓の外を見つめた。


煙草を持った左手の親指でこめかみを押えるのは、多分俺の癖なんだろう。


だけど腕で重たく時を刻む隼人さんの形見のロレックスだけが、俺の理性を保たせる。


伸ばしてしまいそうになる手を止める、唯一のストッパーだ。



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