粉雪2-sleeping beauty-
『…隼人に会いたいんだ…。
だけど、会えなくても良いよ。』


「…え?」


言葉の意味が分からず、戸惑うように聞き返した。


千里は輝きに顔を向けたまま、言葉を続ける。


『…龍太郎と遊んでて、思ったんだ…。
あたしも、母親になりたい…。
産んであげられなかった赤ちゃんに、会いたいんだよ。』


「―――ッ!」


『…隼人に会えなくても、たとえ他に女が居たとしても良いよ。
あたしはあの子を、育ててあげたい。』


千里の言葉に、迷いは感じられなかった。


だから急に遠くへ行ってしまったみたいで、怖くて仕方がなかった。



「…俺の子供産めば良いじゃん…。
俺は絶対反対なんてしねぇから…。
俺と…家族になれば良いじゃねぇか…!」



引き寄せたかった。


どうしても、お前を繋ぎ止めておきたかった。


なのに千里は、首を横に振った。



『…きっと、マツとなら楽しい家族になれるよ…。』


「だったら―――」


だけど俺の言葉を遮り、千里は言葉を続けた。


『…でも、あの子を産んであげられなかったのに、他の子を産むなんて出来ないよ…。』


「―――ッ!」


その瞬間、体の力が抜けた。


もう、どうやったって、俺との未来はありえないと言われているようで。


わかってた筈なのに、悲しくて仕方がなかった。



『…ごめんね、マツ…。』



謝らないで欲しかった。


惨めで、悲しくて、悔しくて…。


徐々に歪み始める視界に、だけど俺は、“泣いてるんだ”なんて気付きたくなかった。


そんな風になんて、思いたくなかったのに…。


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