粉雪2-sleeping beauty-
「…なぁ、最期に教えろよ。」


『…何?』


顔を上げた千里は、首をかしげた。



「…一緒に初詣行った時、お前は何を祈ったんだ?」


“そのことか”と言いながら、千里は煙草を咥えた。


「…“隼人に会いたい”ってのと、“マツが幸せになれますように”だよ。」


『ふ~ん。
じゃあ、どっちも叶うじゃん。』


同じように煙草を咥え、車の方に足を進める。


千里もその後ろから続き、二人で車に乗り込んだ。


エンジンをかけっ放しにしていたため、その瞬間に温もりに包まれる。



『…マツは、幸せなの?』


「幸せだよ。
最期にお前が俺を選んでくれて、その上来世まで約束されたんだぜ?
これほど幸せなことはねぇよ。
これからはずっと、お前のことだけ考えて生きられるんだ。」


笑う俺に、千里も同じように笑い掛けた。



『…ねぇ、今、キリストロザリオつけてるの?』


「つけてますよ。」


服の下に隠していたキリストロザリオを持ち上げ、咥えていた煙草の煙を吐き出した。



『…それ、マツの幸せを神様に祈ったんだ。
マツが死なないように…。
幸せになれるように、願いを込めたの。』


「―――ッ!」



そんな風に、思っていたのか…?


全部俺の為を考えて、これを選んでくれたんだな…。


俺はいっつもお前に驚かされて、その度にお前に見守られていたことを知るんだ。


それが、すっげぇ悔しくもあった。



「…意外だな。
お前、神様なんて信じてたんだ?」


『…信じてないけど、とりあえずお願いしといたの。』


「…何だ、ソレ…。」


少し呆れ、だけど安心したように笑った。


繋いだ手はまだ少しだけ冷たくて、でも心の中が温かかったから気にならなかった。



「…帰ろう。」


『…うん。』


名残惜しい輝きを振り払うように、シフトをドライブに入れる。


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