粉雪2-sleeping beauty-
『…ねぇ、マツ…。』


通る道に、人影はない。


寂しいほどの景色を抜けながら、千里は口を開いた。



『…今からでも遅くないんじゃない?』


「…何が?」


その言葉に、首をかしげる。



『…婚姻届だよ。
出しとく?』


「…ハァ?」


突然の言葉に、目を見開いて千里に向き直った。


だけど千里の顔は、真剣そのものだった。



「…つーか、役所閉まってるっつーの。」


『でも、夜間でも受理してくれるんだよ?』


その言葉に、ため息をついた。



「…お前、本籍地どこだよ?
そーゆーのは、書類とか色々面倒なんだよ。
戸籍謄本とかねぇのに出せる訳ねぇだろ。」


『…そっか。
難しいんだね~。』


少し口を尖らせた千里は、諦めたように大きなため息をついた。



「…つーか、本気だったの?」


『本気だよ?』


その言葉に、ただ笑った。


馬鹿みたいな発想で、だけど千里らしいと感じた。



「…負けるよ、お前には…。」



どーせそれも全部、俺の為だって分かってるから…。


俺とそんなもん出して、どーすんだよ…。


だけど少しだけ、嬉しかったんだ。


流れるバラードに酔いしれながら、千里の手を握り締めた。


良いよ、そんなの…。


俺には、あの約束だけで十分だから。


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