粉雪2-sleeping beauty-
―ガチャ…

『マツ!!
このテレビ、超面白いよ!!』


重苦しくドアを開けた俺の元に、千里が駆け寄ってきた。


いつの間にかリビングは、テレビから流れ出る笑い声に包まれていた。



「ふ~ん。
良かったな。」


『…てゆーか、何でいっつも服着ないの?
風邪引いちゃうよ?』


煙草を咥える俺を覗き込むように、千里が聞いてきた。


相変わらず俺の格好は、スウェットのズボンだけ履いている状態。



「…風呂上りって、服着てベタつくのが嫌なんだよ。」


ソファーに座り、咥えていた煙草から煙を吐き出した。


“そんなもん?”なんて聞きながら、千里も同じように煙草を咥える。


仰ぐ天井に煙が漂い、モヤモヤとしているのは俺の気持ちと一緒だ。



『…怖いね。』


「―――ッ!」


そう言って、俺の肩に頭を預ける。


火照った体にまだ湿った千里の髪があたり、俺から熱を奪う。



「…嬉しいんだと思った。」


『―――ッ!』


瞬間、千里は驚いたように俺を見上げた。


だけどいつものように悲しそうに笑いながら、言葉を続ける。



『…正直、複雑だよ。』


だけど俺は、これ以上聞きたくなくて、その唇を塞いだ。


聞いてしまえば、引き止めてしまいそうで。


ただ、それが怖かった。


時折漏れ聞こえてくる千里の声に、心臓は早さを増す。


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