粉雪2-sleeping beauty-
お前は生きているからこそ、葛藤し続けたんだもんな。


隼人さんの思い出と、俺の存在との間で。



苦しかったんだろうな。


でも今は、そんなこと忘れろよ。


…もぉ、思い出してもいないかな…。





『…まさか、焼肉…?』


「…文句言える立場?」


俺の言葉に、千里はため息で返事をした。


それを合図に、店内に足を進める。



相変わらずの熱気と、肉が焼ける香ばしい匂いが立ち込めていた。


通されたテーブルで、千里は小さくなったように俯く。



『…もぉヤダ…。』


「…何が?」


裾の長いニットのワンピの袖で顔を覆う千里に、相変わらず眉をしかめる俺。



『…だって、お化粧だってしてないのに…。』


「…そんなこと気にするなよ…。
泣きまくって落ちかけの化粧の方が、汚ぇだろ?」


『マツの馬鹿!』



一応機嫌を取ったつもりなのに、怒鳴られてしまった。


俺には、女心なんて全然わかんねぇ。



何度かスッピンは見たけど、相変わらず眉毛がない。


笑ってしまいそうになるけど、これ以上怒らせたくないので、何も言わなかった。


いつものデカい目は、今日はちょっとだけ小さくて、

コロコロ変わる髪型は、ゆるいウェーブにしかなっていなかった。


こんな風に見ると、“普通の女の子”に見えるから、女って不思議だ。



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