粉雪2-sleeping beauty-
『そんなこと言いに来たんなら、帰ってください!』


千里は唇を噛み締めた。



『…まぁ、待てよ…。
お穣ちゃんに話があるっつったろ?』


勝手に黒皮の長いソファーに深々と座り、河本はサングラスを外した。



『…戻って来いよ、あの街に。
店も用意してやる。
…お穣ちゃんなら、稼げるぜ?』


『―――ッ!』


その言葉に、千里は唇を噛み締めた。



『…何であたしが、アンタのシノギにならなきゃいけないの?
どーせ、稼げなくなったら風俗に売るんでしょ?』


『…だったら、売られねぇように頑張れば良いじゃねぇか!
それとも、もう一つの選択肢も用意してねぇわけでもねぇがな。』


薄ら笑いを浮かべた河本は、千里の目を見据えた。



『…前にも言ったよね?
あたしは、アンタの女なんかまっぴらだって!』


千里の荒げる声が、店中に響く。



『…オイ、松本からも言ってやってくれよ…。
ついでにてめぇも、戻って来ねぇか?
昔のことは水に流して、小林の地盤引き継げば良いじゃねぇか。』


「―――ッ!」


ため息をついた河本は、ヤル気なく俺を見て煙草を咥えた。



『あたしもマツも、あの街に戻る気なんてないから!』


怒りを押し殺したように、千里は肩で息をしていた。


そんな千里を横目に、ゆっくりと息を吐いて声を発した。



「…もぉ一度言います。
俺らは、あの街には帰ったりしませんし、アンタの下で働くこともない。
それが用件だって言うなら、帰ってください。」


『ハッ!困ったちゃんだよ、お前らは…。』


言いながら河本は、煙を吐き出し、ため息をついた。


< 72 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop