開かない扉
千代が診療所で暮らすようになって1週間が過ぎた。

エルロの言っていたとおり、若い女がめずらしいこともあってか、男の患者がいくらか増えていた。

中には千代を指名して包帯をとりかえてほしいなどという患者まで現れたが、そこはゼアが手慣れた様子で仕事をこなしながら、うまくあしらっていく。


「あれぇ・・・千代ちゃんでっていったのになぁ」

「そう。悪かったわねぇ。ここは水商売じゃないのよ。私が変わりにサービスしておいてあげるから。ギュ~ッと巻いてあげる。」


「ギャアォ!!いてぇーーーー!わ、悪かった。優しく巻いてくれぇーー!」


治療をしていたナオも、さすがに最近の患者の多さには悲鳴をあげるときがあった。


「ふぅ~。なんだか、けが人が多いな。わざと怪我してるのか。こいつらは・・・」


けが人はどういうわけか、工事現場姿の男が多数いた。


「そうじゃないみたいよ。カルフ山を越える道路工事をしていた人たちなんですって。
原因不明の落石事故とか、地滑り、突風が起こるとか言ってたわ。」


「なんか変だな。カルフ山ってそれほど、切り立った崖もないし、なだらかで、ピクニックコースなんかある憩いの場所みたいな山だろ。
調べてみる必要があるね。」


「先生、私が行く!」


「だめだ。千代ちゃんはひとりで外出するのは、とても危険だと話したよね。
しかも、これだけのけが人が出る山になんか、行かせられない。」


「えぇーーー。いざとなれば魔法使えばいいし。」


「だめ!山の調査は明日、休診だから僕とゼアで行ってくる。」


「いやっ!それってここに私ひとりでってことでしょ。
エルロや、変な人が来たら嫌だもん・・・。」


「あ、それもそっか・・・。しょうがない、じゃ、3人で行こう。」


「やった!」


千代はピクニック前日の、小学生のようにはしゃいだ。


「まぁ、仕方無いか。元の世界のように自由に出かけられないんだもんな。」
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