開かない扉

「何を言おうとしてるの？私はまだ、この世界のことがぜんぜん理解できてないのに、なぜ？私は元の世界の記憶のある人類よ。救世主だなんていわれても、困るわ。」


「そうか、この世界へ来て浅いのか。ははぁ・・・まだ贄と契約を結んでいないな。」


「契約って何？それに贄って・・・何が何だかわからないわ。」


千代はなんとなくだが、自分はナオが混乱しないように守ってくれていたんだと感じた。
買い物に出かけるにも、多忙なのにナオはいつもつきあってくれていたことなどが、思いだされて、今までの自分がいかに、あまえていたのかを思い知らされた気がした。

知らない世界にひとりでとばされたショックにあまりに甘えすぎていた。

元の世界へ戻る手だてもないのだから、ここで自立を考えなくてはならなかったのに・・・。


千代は後悔と反省をしたら、涙が出て止まらなくなった。


「しょうがない。俺の下調べ不足だ。その涙の分くらいはおまえの役にたってやる。

・・・で、何からききたい？おまえの疑問を解いていかないと、魔法の教授どころではないだろうからな。」


千代は泣き声で質問した。

「さっきから贄がかわいそうとか贄と契約を結んでないとかいってるけど、贄って誰のことなの？」


「ああ、おまえを追いかけてきたあの男。あいつが贄だ。
贄はさっき言ったが救世主だけのために生きることを許された魂のことだ。
ここでは人の姿はしているが、あいつは元の世界では死体となって、この世には存在しない。
でも、魂がこの世界にきてしまい、おまえという存在を待っていた。
だから、この世界で他の人間に比べて早く出会わなかったか？」


「最初に会った人よ。私の足を治してくれて、助けてくれた。」


「そうだ、間違いない。贄は救世主と確実に出会うことになる。神がそう定めているのだからな。
贄は、救世主と正式に契約を結ぶことができたら、救世主のために役立ち、そして、救世主の命が朽ち果てることを止めることができる。」


「だから、いっぱい守ってくれようとしたのね。ナイトみたい。」

千代に少し笑みがもどろうとしたとき、ルイゼは言葉をつづけた。