開かない扉
ゼアたち診療所にいる皆がおどろきと悲しみでいっぱいになった。
そして、その話を千代もルイゼから聞かされていたのだった。
「先生が・・・うそ・・・うそよ。死んだなんて・・・。死体にもどったなんて・・・」
「俺はよくおまえに嘘を言ったりしたが、今回ほど嘘を言いたかったことはない。
でも、それが生贄の運命なんだ。
神が手前勝手に作りあげた人形なんだ。
けどな、希望はなくはないんだ。いいか、落ち着いてきけよ。
あいつが最後の最後まで、結界を張り続けたのはなぜだ?
おまえを信じて、みんなを助けたいと思ってたからだろ?
おまえが好きだからだろ?
よく耳をすませてみろ!近くにあいつの魂がうろついていないか?
何か聞こえてこないか?」
千代は泣きながら、ルイゼに言われたとおり、耳をすませた。
「先生・・・近くにいるの?」
『千代、気がついてくれたんだね。あまり時間がないから、一度しか説明できないけど言うことをきいてほしい。』
「うん、わかった。何でもきくから言って。」
『君はこれから診療所へ行って、僕の死体を食べるんだ。
食べるといっても、形式だけのものだから、近寄って口をあければ、僕の肉体、いや肉体に見えてるものがスッと君の中に入ってくる。』
「そんなことできないわ。先生を食べるなんて・・・いくら形式だけって・・・死んでるからってそんなこと・・・」
千代の様子を見てルイゼが声をかける。
「生贄は神が作りあげたものだけど、魂はナオそのものなんだよ。
君はどっちの言うことをきくんだ?千代は彼の体と契約したのか?魂と契約したんじゃないのか?」
千代は涙をふきながらナオの魂に謝った。
『僕の肉体を取り込んだら、全世界の人に呼びかけて。
私に力を貸してくださいと声をかけるんだ。
うまくいったら、君は新しい魔法を会得しているはず。
そして、呪文を唱えたら、目を閉じて待てばいい。』
「待つって・・・何を待つの?・・・せんせ・・・こたえて?
何も聞こえない。どうして?どうしてもう、何も言ってくれないの?」
ルイゼが千代の肩を軽くつかんでつぶやく。
「魂は本来の場所へ行ってしまった。最後に彼はなんていったんだ?」