開かない扉
「目を閉じて待てばいいって・・・」
「じゃあ、そうしてあげなきゃ。彼のために・・・。俺はこの醜いやつらをおまえの代わりに倒しておいてやるから、診療所へ行って来い。」
ルイゼに背中を押されて、フラフラしながらも千代は診療所へと向かった。
そして、診療所で向き合った、ナオの亡骸はどす黒くなっていたけれど、顔は安らかで千代を送り出してくれたときの笑顔のままだった。
「先生ったら・・・こんなとこでも気を遣って・・・私が恐く思わないように、笑って・・・もう・・・食べるなんて表現が悪いのよね。形式上だもの。
今から私、先生に・・・ナオにキスします。そのほうがステキでしょ?
だって・・・嫁さんだもん。」
千代はナオの唇に口を少しあけて触れる寸前まで近づいたときだった。
ナオの肉体はザザっと、霧のようになって千代の口から入っていった。
ゼアたち診療所の仲間たちも目を白黒させて、おどろいていた。
リリルは大粒の涙をいっぱい流して言った。
「ナオ、あなたのお嫁さんはすごいわ。神様なんかに好き勝手されるんじゃなくってよ。
必ず、なんとかしてもどしてあげるから。
私、あきらめないから。」
千代は贄であるナオを取り込むことに成功した。
外で暴れまわっていた化け物や山をどんどん下ってきていた化け物はすべて消滅していた。
しかし、地震の揺れはぜんぜん止まらない。
人々は不安になり、恐怖の声をあげずにはいられなかった。
「いったいどうなるのよ~~。あ~こんなときに、何も見えないわ。
いつもなら、悪いことあっても先が読めるのに。」
ゼアが悔しそうにつぶやいても揺れはひどくなってくる。
そんなときだった。
千代の体が金色に輝き、千代の声が皆の耳へとこだまする。
「皆さん、私に力を貸してください。
私が皆さんをお守りします。大丈夫。
だから、力を貸してください。祈ってください。
千代に力を・・・って祈って。」
「みんなっ!千代の言うとおり祈るのよ!はやくっ!」
リリルが診療所の仲間たちに大声をかけた。
そして千代は診療所を出て、町の入り口へと走っていった。