開かない扉
マリアと名乗っていた神はもう誰が誰だかわからなくなっていた。
神々が落ち着いた状況になったという以外はとくに、何も変わったところは見受けられない。
ただ、地上は荒れてしまい、復興には時間がかかるというだけのこと。
そして、千代は・・・千代は待っていた。
ナオの魂の言葉どおり、目を閉じて待っていた。
目を閉じていると、頭の中をいろんな場面がよぎっていく。
しかし、それはナオとの思い出ではない。
仲間たちとの生活でもない。
見知らぬ光景・・・扉を開ける自分。
空を飛ぶ自分。
壁なのか、空なのか、扉なのか、闇なのかも不明な枠組み。
いったいどのくらいの時間が過ぎたのだろう。
何かに呼ばれて、目を覚ました。
「う・・・ん?ここはどこ・・・?地面?」
そう、そこは千代が眠りこけたはずの畑であった。
空には満天の星が瞬いている。
「あ、だめだ、風邪ひいちゃう。かえろっと。」
千代は異世界のことがあやふやだったため、とりあえず、もとの世界という部分を必死に思い出し、やりなおすのであった。
幸いなことに、その記憶は間違ってはいなくて、あったかいお風呂まで用意されているうれしい我が家だったので、千代はホッとした。
しかし、何か胸がもの悲しい。
思い出そうとすると頭痛がする。
私は約束したんだ。とにかく待つと・・・。
でも、思い出せない。それ以前のとても大切なこと。
大切な人。
自分の本来の寝床で眠りについた千代は、夢を見た。
深い藍色の瞳・・・自分を覗き込む真剣なまなざし。
((私に向かって、何か言ってるみたいな・・・ナ・・・オ・・・誰?))