開かない扉
翌朝から、千代はまた畑で元気よく働いていた。
「そろそろリフレッシュもできたし、真剣に婚活でもしようかしら・・・な~んてね」
千代の母親は近所の酪農農家の友人の手伝いに自分の代わりに千代に行って来てと頼んだ。
「どうしたの?」
「お母さんね、高校のときの恩師が亡くなってお葬式に出なきゃいけないのよ。
あんた悪いけど、子牛のお産の手伝いに行ってやって。
わかってるでしょ。前に一度、お母さんとやったしね。お願いっ」
「あ、わかったわよ。行ってくる。先生が死んじゃったんだもの、お別れしてきて。」
(( あ・・・先生とお別れって・・・あ・・・胸が痛いよ。))
千代は自分で何をへこんでいるやら・・・と玄関を出るとき、ふぅ~!と気合をいれなおして、子牛のお産の手伝いに出かけた。
母親の友人である、那美子さんのところには千代より5つと7つ下の子どもがいる。
千代は小さい頃からこの子たちとも遊んだことがあって勝手知ったる酪農一家というわけだった。
那美子さんのご主人であり、酪農家の三郎さんは、お産をする牛が難産だろうとわかっていたので、獣医さんもきていた。
「あれ・・・いつものお医者様じゃないの?なんか若いみたいだけど・・・」
千代は那美子さんにたずねてみた。
「いつもの先生ね、腰痛ひどくしちゃって入院したんですって。
まぁもう高齢だしね・・・それで、留学していたお孫さんがどうやら後を継ぐみたい。」
「へぇ・・・孫ねぇ。」
牛の出産は結局、夜中になって産まれたと居眠りしていた千代は那美子さんに起こされて知ることとなった。
那美子さんはご主人と牛の世話をしに牛舎へ行き、千代は留学帰りの獣医にコーヒーを出す役を那美子さんに頼まれた。
「大変でしたね。お疲れ様でした。コーヒーをお入れしまし・・・た。
あ・・・あ・・・・」
「ありがと。・・・・・千代ちゃん。」
深い藍色の瞳の獣医のお孫さん・・・私の名前を知っているのは偶然?
那美子さんが伝えてた?
「あの、先生のお名前きいてもよろしいですか?」