開かない扉
獣医の青年はニコッと笑いながら自己紹介した。

「柿崎尚です。あ・・・ナオでいいですから。
僕はたぶん、どこかで千代ちゃんに会っていると思うから、こんな親しげに千代ちゃんって言ってます。
申し訳ないんですけど、どこで会ったかというのがどうしても思い出せなくて・・・いや、なんか記憶がめちゃめちゃになって。僕はどこかおかしいのかもしれません。」


笑顔で自己紹介が始まったはずなのに、最後には困惑した顔をしている。
何か思い出そうと必死なのだ。


千代は自分も思い出したいことがあるのに思い出せないと伝えた。

思い出したいことがあるのに、出てこないで、今出て来ないでどうするんだ!
そんな感情が2人の中にわき上がったとき、思わずお互いの手をつかみあっていた。


「えっ!」

「あっ!」


一気に異世界の場面が頭の中に押し寄せてきた。

「やっと会えた。・・・僕が見つけた女の子にやっと・・・」


「おかえりなさい。約束をちゃんと守ってよかったわ。うふっ」


「ありがとう。待っていてくれて・・・。」



「あれ?あれあれ??でもぉ・・・先生ちょっと・・・あの、なんか・・・かわいらしくなった?あ、ごめんなさい・・・。でも若くなったような・・・」


「えっ・・・僕が死んだときの年齢にもどってるはず・・・!
そっか、贄じゃないから、3才分返してくれたんだ。
あ・・・もしかして若くなった僕じゃ、嫌かな。」


「ううん、あっちの世界でずっと私は自分が子どもに見えちゃうのを気にしてたんだけど、今度は普通にどこでも話せそう。年下くんになったわけじゃないしね、あはは。」


「そういってもらえてうれしいな。じゃあさ、今日はちょっと僕も牛の出産やら、記憶の整理やらで正直、頭がクラクラしてるから、明日ここまで来てくれないかい?」


ナオは自宅の住所と地図を記したメモを千代に渡した。

千代もとりあえず、心の整理をしてから・・・と思ったことと、2人して魔法が使えないということを認識して自分の連絡先をナオに伝えていったん帰宅することにした。





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