乱樹(らんじゅ)の香り
「絶対逃げると思った」

兵庫は、自分がしておいて、驚いた顔をしていた。

「逃げられるわけないでしょ」

麗は怒った。

「あ、捕まえてたか、オレ」

「…そうじゃなくても、逃げられると思う?

ヒドい。

まだ、あたしがウソついてると思ってたんだ」

「思ってた」

「じゃあ、証明できた。帰る」

「待って。悪かったって」

麗は振り返った。

「これ以上引きとめたら、彼女に言いつけるから!」

悔しいことに、この言葉は効いてしまった。

麗は、せっかくゆっくり兵庫と喋れるチャンスを自分で失わせてしまった。

「じゃ、ね」

「うん。ありがと、見舞い」

「うん」

麗は、走って兵庫の部屋を出た。
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