乱樹(らんじゅ)の香り
立ち上がっても、手を離してやらなかった。

兵庫は、ちょっと困った顔をする。

無理に引き剥がすことも出来ない。

こういう、兵庫の妙なやさしさが楽しい。

この、表情も、いい。

けれど、このまま外に出て、誰かに見られたら、非情にこまるのだろう。

麗は、手を離した。

「帰れそうだから、帰る」

「えっ?」

「いくらヨソのマチでも、彼女が突然やってきてて、見られないとも限らないから、一人でいい」

「でも、送」

「いい。まだ全然明るい時間だし。じゃっ」

「あ、ピアスは?」

麗は兵庫を見つめた。

「忘れて行く」




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