恋愛ごっこ
人が勝手に避けていくから。

「あっ、あのっ天凪さんっ！！」

横から声がして、私はそこを見た。

いろんなところに笑顔振りまきながら歩いてはいるけど、一人ひとりの顔なんて見てる余裕はなかったから誰かも全くわからなかった。

人ごみをかき分けて出てきたのは二十歳くらいの男の人。

………あ……、この人………。

「お久しぶりです、久波良(ﾋｻﾊﾗ）さん」

確か２、３年前にうちと取引したところのご子息だったはず。

「お、覚えていて下さったんですね」

細くて少し長めの黒髪。

優しそうに笑う人で、敬語がよく似合う。

あんまりお坊ちゃんには見えないんだよね。何回見ても。

「………天凪、この方は？」

………笑顔だけど、優しそうに見えるけど、私の手を握ってる力が強くなった。

…ほんとう。

昨日から何なの？

いきなり………あ。

そういえば昨日男と喋るなみたいなこといわれたんだっけ。

「久波良さんは前に取引をした家のご子息よ？」

「そうだったんですか。婚約者の天凪がお世話になりました」

にっこり笑う紘翔。
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