恋愛ごっこ
「あら、二人とも有難う。教室まで一緒に行っても構わないかしら?」

伊織は微笑みながら訊ねてくる。


「えぇ、私は構わないけど……いいかしら」

上目遣いに紘翔に確認をとる。

「構いませんよ。美登原さんは天凪の大切なご親友ですしね」


紘翔は伊織に言いながら笑みを浮かべる。


少し横を見ていた私は、

「きゃっ…」

何かに躓いたらしい女生徒と衝突した。

「天凪っ」

反動で少し躓いたけど、すぐに紘翔が支えてくれる。


「たっ…、天凪様っ!?もっ…申し訳ございませんっっ」

私に気づいて深々と頭を下げて謝る目の前の女子生徒。


リボンの色が黄色…だから一年生ね。

「大丈夫だから、顔をあげて?」

「え…あの……」

「あなた、お名前は?」

それでも下を向いたままの少女に問いかける。


「みっ…水城 楓-ミズキ カエデ-と申しますっ」

恐縮だとでも言うように少女、楓は声を発した。

水城……。

まぁ、水城グループは咲煌寺の下のほうにいるから仕方ないんだろうけど。


「楓ね。そんなに恐がらないで?あなたのお父様にはいつもお世話になっているのよ」


「はっ…はい。勿体無いお言葉ですっ!!」


私がそう言うと楓は嬉しそうに笑ってから、「失礼いたしますっ」と言って小走りに校舎にかけて行った。
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