駆け抜けた少女【完】

「本当なんですってば、山南さぁん!!」

「うーん、にわかに信じ難い話だね」


汗を拭う永倉の前に現れたのは、副長の山南と副長助勤の藤堂。


顎に手をやり考える山南の傍らで藤堂が興奮しきった顔で何やら説明していた。


井戸場からそんな二人を見つめている永倉に山南は気づき、やあと片手を上げた。


軽く解釈をした永倉は、山南から藤堂に視線を移す。


「平助、山南さん困らせて何やってんだ?」

「ちょっとそれ侵害だよ新八さん!? 困らせてないっすよね? ね? ね?」


山南は同じ北辰一刀流の出である弟分のような藤堂にまくし立てられ、その温厚そうな笑みが若干崩れてしまっている。


やっぱり困らせていると、永倉は腰に手を当て、あいている方の手で藤堂の襟首をムズッと掴んだ。


「ウラァッ! いってぇ何をんなに熱くなってんだよ?」

「グヘッ! 痛い痛いっ!
もう――…矢央ちゃんの事だよっ!」

「ん? 矢央?」


どこにいても矢央の話題に出くわすなと永倉は苦笑いしながら手を放した。

解放された藤堂は、ゼェハァ言いながら喉元をさする。


全く手加減知らずの人なんだから。と、心で悪態をつのは忘れずに。



「んで、その矢央がなんだってんだ?」

「いやぁ、それがね永倉君。
矢央君が、剣術でもやっているんじゃないかと言うんだよ」

「………なわけねぇだろ」


山南と目を合わせヒクッと頬をつらせた永倉の言葉に「私もそう言うんだがね」と、山南は藤堂を一瞥する。


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