駆け抜けた少女【完】
二人からの疑いの視線がチクチクと刺さるが、藤堂には確信めいたものがあったのだ。
二人の前に人差し指をビシッと立てる。
自然と人差し指に顔を近づけた男三人の姿は異様な光景で、身体を洗いに来た隊士達は訝しんで、その様子を眺めていた。
「だから、本当に矢央ちゃんは何かやってるって!」
あの日の夜、矢央を浪人達から助けた藤堂と沖田。
二人は割と早くから矢央に気づいていたのだが、矢央の素早い動きに思わず呆気にとられていたために出遅れていた。
「あの眼は、普通の女子には出来ないと思う」
浪人達を冷静に見据えた眼には迫力こそはないものの、相手の隙を事細かく見極めようとしていた。
その集中力は凄いものだと藤堂に思わせたのは、その後の行動によるものだ。
浪人達が一気に飛びかかる一瞬の隙を見抜き、矢央は身のこなし軽やかにかがみ込んだかと思えば、四人の男の間をスルッと後転し、その危機を脱したのだ。
「でもねぇ、矢央君に限って」
「そうすっよねぇ。 あの身体だしな」
なかなか納得しない二人に、藤堂はヤレヤレと首を振った。