駆け抜けた少女【完】
第六話*芹沢鴨との出会い
「矢央ちゃんって、剣術かなんかやってない?」
「………へ?」
唐突な質問に目を丸くすると、矢央はあっさりとその答えを発した。
「剣術はやってないですけど、合気道を少々」
「「「合気道!?」」
「体術の一つで、受け身を基本とした……護身術です」
サラッと話す矢央にとっては普通の事だが、男達は驚きが隠せない。
ポカーンと口が開いたままだ。
「剣術じゃなく、体術かよ」
「? はい。 おじいちゃんが、格闘技好きなのと、私小さいんで……過保護な親が誘拐されたら困る! とかなんとか言って、自分を守れるようにって気がつけば習ってました」
それが何か? と、三人を見上げたまま首を傾げる姿が、三人は子犬のように見えて仕方ない。
こんなに小さな子が、投げたり殴ったり……できるのかと。
「ほらね、やっぱり僕の眼は確かじゃないか!」
えへんと胸を張った藤堂を無視して、永倉の視線は矢央に向けられている。
「んで、腕前は?」
「えーっと……さあ?」
「なんでわかんねぇんだよ?」
そう尋ねられても困ると、唇を尖らせた矢央。
「私の流派は、試合を好まないとこだったんですよ。
師の教えは、精神論ばかりで……」
相手の技を己の力に変え、どんな強豪や状況を前にしようとも常に平常心を持て。
相手を傷つけるものとするのではなく、己を守るものとしろ。
これが、矢央の師が常日頃から言い聞かせているものだった。
「試合なんてしなくていい、敵は常に己の心の中に存在するのだ……てのも、口癖でしたね」
「敵は常に己の心の中にある」
山南は、その言葉に深く共感し何度も頷いていた。
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