駆け抜けた少女【完】
「素晴らしい師匠だったのだね」
「はい、とても尊敬してます」
矢央と体術の話で盛り上がる山南と藤堂の後ろでは、真剣な表情で笑顔の矢央を見つめる永倉がいた。
だから、年の割に落ち着いてんのか。
まだあどけなさが残り、ぱっと見では子供。
だが丁寧な話し方や、礼儀作法にやたらうるさかったことなどから年の割にと思った。
けれど、たまに見せる仕草や表情はやはりまだ子供で、しっかりしているせいで心配にもなる。
無理をしなきゃいいが。
と、永倉は心の中で呟いた。
「そうだ! えっとさ、その腕が治ったら腕前披露してよ?」
チラッと細腕を見て、にわかに眉を下げた藤堂。
本当ならば、今その傷で痛みを感じていたのは自分なんだという顔だ。
それに気づいた矢央は、パッと左腕を上げた。
「それがこれ、もう治ったみたいなんです」
「「「え!?」」」
また、三人の声が揃った。
「さっきから腕を動かしても痛くないんですよね」
「ほ、本当に?」
恐る恐る矢央の腕に手を伸ばした藤堂。
矢央は思い切って、腕に巻かれていた晒をくるくると解いていく。
慌ててる藤堂を、かなり無視した行動だった。
全て取り終え傷口をみると、不思議な事に、
「やっぱり、治ってる」
きれいさっぱり刀傷は無くなっていた。
「うっそ〜?」
「まじかよ……?」
「これはいったい……?」
驚くのは無理はない。
昨夜おった傷が、たった半日で治るなんて人間業ではない。
「私、いつからこんな神業を極めたんですかねぇ?」
呑気なのは矢央一人である。