駆け抜けた少女【完】

新見錦。
同じく壬生浪士組で、壬生浪士組筆頭局長芹沢鴨の右腕的存在の男だ。

剣術の腕も神道無念流の使い手で立つのだが、新見は文学にも冴えていて芹沢の知恵袋とも言える。

「女中では……ないようだ。
さてしかし、初めて見る顔だがな」


新見は訝しい表情で、藤堂の腕に抱かれたままの矢央を丹念に見ていく。


ずる賢そうな新見を、キョトンと見つめ返す。



藤堂は(ヤバ…)と、矢央をさらに深く自分の胸の中に抱き込み新見から遠ざけようとしたが


「ほお、これはこれは。
いつの間にやら、藤堂君も女に目覚めたかね? ん? 何処で射止めきたのだ?」


厭らしい目つきで矢央と藤堂を交互に見やると、新見はもっと近くで見定めようと一歩足を出す。



――――ジャリ…


「新見さん、近藤さんに用があんだろ? 確か、もう暫くすっと出掛けるとか言ってたんで、早く用件を済ませた方がいいんじゃないですかい?」


草履を履き庭先におりた永倉が、山南達の前……三人と新見の間に立ちはだかる。


「永倉か。 そうだな……」


気配なく目の前に現れた永倉に一瞬たじろいた新見だったが、永倉と新見は同じ神道無念流の出であることから、ちょっとした顔見知りで、その仲も近藤達とは違い険悪とはいかない関係にある。


なので気を許したのか、新見は永倉の肩を一度叩くと


「いや、やはり……その女なにか匂う」


顎に手をやり眉を寄せる。

やはり直ぐには退きそうもなく、どうにかして矢央を隠し通したい三人は困り果てる。



「匂うって、私ちゃんとお風呂入りましたけど!?」

「「「なっ!?」」」




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