駆け抜けた少女【完】
「あんた今、"もちろん"って言っただろぉぉぉっ!?」
「突っ込むとこはそこかよ」
重い溜め息が部屋に響き渡る。
「無いとは断言できねぇんだ。お前が、女である以上」
ただの小姓なら心配ないが、二人が気にしているのは芹沢達と過ごす間の矢央の身の安全だった。
そのような行為があっても、近藤達は助けには行けないのだ。
「仕方ない、やはり断り―…」
「大丈夫です。 私、小姓やりますから」
矢央は揺るがない意志を二人に示すと、にこっと微笑んだ。
「いざとなれば、ぶっ飛ばしますけどねぇ」
と、戯れ言まで言う。
「しかしだなっ…いや、やはり」
「近藤さん、私だって何か役に立ちたいんです」
此処にやってきてから、矢央はみんなに世話をやかせるばかり。
不安だった。
なんのために此処にいるのか、なんの役にも立てない自分に悔しさも抱えていた。
だが、みんなに何か手伝えることがあるかと尋ねても逆に困られてしまう。
ただ毎日、退屈に時間を無駄使いするだけで、退屈な時間があればある程、いろんなことを考えてしまう。
何か仕事があればやりたい、そう思っていたのだ。
しかもそれが、自分から頼んだものではなく頼まれたことなら尚更やるつもりだ。
「本当に良いんだな? 後で後悔しても遅いんだぜ」
土方は、最後のチャンスを与えたが矢央の意識は固かった。
「よし、だったら頼んだぜ。だが一つだけ、ぜってぇに芹沢さんの機嫌だけは損ねるな」
「わかりました」
こうして、過去へやって来て初めての仕事を持つことになった矢央。
これがきっかけとなり、この先矢央は自分の身の置き場に悩むことになるが……
そんなことになろうとは思いもせず、新しい生活にうきうきと心を弾ませていた―――――