駆け抜けた少女【完】
近藤に仕事を与えられてから、即行動とばかりに矢央は少ない荷物(着替え)を持ち八木邸の門を潜ろうとしていた。
その姿を見つめている人影がある。
「矢央ちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃねぇか? なんつっても新見の野郎を転がしたんだろ?」
「いや、まあそうだけどさ。てか、左之さん新見の野郎はないんじゃないの、や・ろ・う・は!」
「あん? 俺ァ、あんにゃろうめが好きになれねぇんだ」
好き嫌いの問題じゃない、と藤堂は自分の頭の上に腕を乗せる原田を見上げた。
重いっつーの……!
「んなことよりよ、何で矢央が八木邸に行くことになったんだ?」
ハァ(?)と、藤堂は原田の腕を払いのけると、くわっと顔を近づけた。
「知らないのっ!?」
威勢の良さに、原田は勢いよく頭を上下に振る。
「さっき、僕が大丈夫かな?って言ったら話に乗ってきたっしょ!?」
「あー…ノリだ!」
「ノリ!? ノリだけで物事進めちゃダメだよ! あんた、いつか命取りになるからね!」
「ハァ?」
何故命取り……とまで話が大袈裟になるのかわからない。
時々藤堂は大袈裟だと、「へいへい」と軽く流すのだった。