駆け抜けた少女【完】

第八話*歓迎の宴





―――翌朝。


「……すみません」


お盆を胸に抱え涙目で申し訳なささを全面に表す矢央がいた。

八木邸、芹沢の部屋での一幕である。



芹沢は湯のみを握ったまま固まっている。


やっと口を開いたかと思えば渋い表情を浮かべ、矢央を見やった。


「俺は茶が飲みたいと言ったはずだが……」


「はあ……すみません」


ひたすら謝るしかない。


朝、芹沢を起こすまでは上手くいっていたが、芹沢が茶を要求したので台所に向かった。


だが、この時代に来てから矢央は何一つ教わっていなかった上に元々茶のいれかたなんて知らない。

誰かに聞こうにも運悪く誰もいなく、待たすのもあれだと思い自分勝手に茶をいれた。


―――茶を、いれたつもりだった。



「白湯だな」

「白湯でしたね」


茶の味など一切しないそれは白湯で、芹沢は溜め息を吐き湯のみを置いた。


「まあいい…次頼む時までにはまともな茶を出せるようにしておけ」

「はい……すみません」

「もう良いと言っただろ?
何度も謝られるのは好きではない――それより」


芹沢が一旦言葉を溜めた。

矢央は何事かと首を傾げる。


次の発言に土肝を抜かれた矢央は、照れたように微笑んだ。



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