駆け抜けた少女【完】
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その日は、何をしなくても汗が流れる程蒸し暑い夏の日。
後の新選組局長になる近藤勇が江戸で慎ましやかに営む剣術道場試衛館の庭先で、十八歳の沖田と小柄な少女が一緒に庭掃きをしていた。
少女の名は、近藤華緒。
長く艶のある黒髪と、雪のように白い肌。
小柄で華奢な体にスッキリとした小顔があり、その少女の目はつい見惚れてしまう程に常に潤んでいるような大きな瞳だった。
「本当に良い子だねぇ、お華は」
「良い子すぎて……、少しは甘えてくれてもいいのにねぇ」
沖田と仲睦まじく庭の掃除をするお華を見て、近藤の妻ツネは寂しそうに言った。
お華は近藤の姓を名乗っているが血縁関係は一切なく、謂わば養子としてお華は近藤家に引き取られていた。