駆け抜けた少女【完】

「コラーッ! みんなして、矢央ちゃんを囲うんじゃなーいっ!!」


困り果てていた矢央に救世主が現れる。


藤堂はバッサバサと隊士達を凪払うと、矢央をガバッと抱きしめていた。


「と、藤堂先生!?」


威嚇する藤堂を隊士達は訝しげに見る、その様子に騒ぎをおさめようと山南が手を叩いた。


「ほらほら、矢央君が主役なんですよ? そろそろ食事をとらせてあげなさい」


山南にそう言われたら仕方ないと、隊士達は元の位置に戻りそれぞれが食事をしたり酒を飲んだりし始める。


それにホッと胸を撫で下ろした矢央は、未だに唸り声を上げている藤堂を見上げた。


昨日もこうして庇ってもらったなと、はにかむ矢央だった。


そこへ山南がやってくる。


「藤堂君も、席に戻りなさい」

「山南さ〜ん……」


うるうると瞳を潤ませ泣き声混じりな藤堂に、山南は優しく微笑みかけ頭を撫でてやる。


「矢央君、芹沢さんの御酌が終わったら我々のところにも来てくれるかな?」


これは藤堂への配慮だった。

山南の顔を笑顔で見上げ、矢央は「はい!」と元気に頷くと、抱きついて離れない藤堂の腕をポンと叩く。


ウーッと、矢央の肩に顔を寄せる藤堂の頭をポンと叩くと、今後は藤堂が矢央を見上げる形になり。


「藤堂さん、後で御酌しに行きますね!」

「………ほんとに?」

「はい!」

「………わかった」


唇を尖らせながらも離れた藤堂の背を山南が押し、二人は自分の席に戻り、矢央はようやく芹沢のもとに行く。



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