駆け抜けた少女【完】

矢央が芹沢のもとに行けた時には、既にホロ酔い状態。

芹沢に遅い!と怒られながらも、賑やかに会話を交わしている二人を見ながら藤堂は溜め息を吐いていた。


目線を下げお猪口を見、並々に注がれていた酒を一気に浴びた。


「―――プハァッ!」


もう何杯目になるのか自分でもわからない。


片膝を立たせ、そこに肘を置きダルい頭を支えた。


「いつもはチビチビと飲む派な藤堂君にしては、今日はもう出来上がってしまっているようだね」


さて、どうしたのかな?
なんて、わざとらしく眼鏡をくいっと上げた山南。


「僕にだって酔ってしまいたい時があるんですよ」

「それは、またどうして?」

「どうして――――」



……んなの、知らないよ。


また酒をあおった。


自分でもこのイライラが何なのか分からないから困ってるんだ。

昨夜、いつもは沖田と藤堂の間に挟まれて寝ていた矢央がいなかった。


ああ、そうだった。

芹沢さんの所へ行ってしまったんだ……と、もぬけの殻な隣を手で撫でて寂しく思った。


夜の見回り当番じゃない日は、眠くなるまで矢央と会話を交わすのが日課になっていたし、未来の話を聞いていると飽きなくて楽しい。


最近では夜の当番がやってくるのが億劫に感じていたほどに。


「彼女は見ていて飽きない」

「――――え?」


考え事をしていた藤堂の耳に、楽しげに語り出した山南の声が届く。

隣に視線を送ると、漬け物をボリボリと頬張っていた。



「君達を見ていると、更に飽きないよ。 子猫がじゃれあってるようだ……うん、私は良いことだと思うよ」


「じゃれあってって……」


一人で納得している山南だが、その心情は藤堂にはわからない。


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