駆け抜けた少女【完】
この若者の恋の行方がどんな方向に進むかはわからないことだが、その過程にある人並みの感情こそが今彼等に唯一娯楽となるのではないか。
そう思えた山南は、そうとわからない藤堂のお猪口にまた酒をついだ。
「もおー、山南さん、そんなに急かないで下さいよおー」
「クスッ。 まあまあ、たまには良いじゃないか。
おや、藤堂君お待ちかねの人がやってきたようだ」
「お待ちかね……て、矢央ちゃん!」
ようやく芹沢の御酌から解放され、その後近藤、土方にも御酌を済ますと、自らお膳を運び藤堂達のもとにやってくるのは矢央だった。
その姿を見つけるなり、藤堂はにぱっと笑顔に花が咲き、矢央を急かすように手招きしている。
我ながらいらぬ世話をやいてしまっているのかな。
と、苦笑いするのは、藤堂をお膳立てすれば、また隣にいる者が不機嫌になるからだ。
彼もまた悩み時なんだろう。
その人物とは沖田である。
先程から、少しずつ箸を進めながらボーっとしている沖田に酒を勧めた。
「――いえ、私は……」
「君も、矢央君の御酌が良いのかな?」
「……また、山南さんも人が悪いですねぇ」
「あはは。 浮かない顔をしていては、食事も美味さ半減だよ」
沖田もまた悩める青年だ。
藤堂とは違った意味でだが。
沖田は山南の心情が読めたのか、チラッと藤堂と矢央に視線をやった後、小さく微笑んだ。
その笑みは、また複雑そうで山南は無理矢理に沖田に酒をつぐ。
「もう…私は、お酒は苦手なのですよ?」
「そう言わずに、これは慣れなんだよ」
「仕方ないなあ…では、これだけにして下さいな」
くいっと一気に飲み干すと、喉が熱く焼けた。
ウエッと、舌を出す。
よくこんなもの飲めたものだ…と、心のなかで毒吐いた。
「沖田君、まだ迷っているのかい?」
「コホッ……迷ってなどいないですよ。 山南さんも、永倉さんも心配しすぎなんです。
私は、彼女を彼女だとは思っていない…それは確かですから」
.