駆け抜けた少女【完】
矢央とお華が別人であることは確かだと、沖田が誰よりもわかっているのだ。
――……この手が、赤い血で染まった日を忘れるはずはない。
お華が涙を流し、息を引き取った日を忘れるはずはない。
私が、殺したんだ……。
沖田は、白い掌を見つめた。
白く軟弱そうな手、でもこの手は血の味を知っている。
「沖田君、私が心配なのは、君ではないんだよ」
あの日、山南はその現場を見てはいない。
だから、沖田とお華の身に起こった事件は聞いた話でしかない。
「君も矢央君も、この先きっと壁にぶち当たる日が来る。
その時、二人には信じた道を進んでほしいと願うが――……」
山南は、顔を上げると土方を見た。
チビチビと酒を飲み、ダルそうに近藤の話に耳を傾けている土方を。
「そうできない状況になるんではないかと、心配なんだ……」
若者が、己の意志で進む道。
それは、果たして本当に己の意志なのか。
何者かの策略あって、決められて行くのではないか。
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