駆け抜けた少女【完】
さて、その泣く子も黙らせる土方の睨みを一身に浴びている矢央は――――
「ごめんなざぁぁぁぁあい゛!」
泣いていた。
それもう、鼻水まで垂らし泣いていた。
美少女という名誉剥奪もいいとこだ、その顔はぐちゃぐちゃなのだから。
「謝っても今度という今度は許すかっ! テメェは、女だということを自覚しろ! いってぇ、どんな育てられかたをしたんだ!!」
土方は中腰になり、片足だけ立たせたそこに矢央を乗せ、大勢が見ている前でバシバシと容赦なく尻を叩いていた。
乾いた音と、土方の怒鳴り声、そして矢央の泣き声が響く。
「いたっ! 痛いっ! ごめんなじゃいっ、もうしまじぇんがらぁぁぁっ!!」
「許さんっ!!」
「いぎゃあぁぁぁぁっ!!」
その騒ぎを収めたのは、山南でも近藤でもなく芹沢だった。
「もうよせ、あまり泣かせてもらっては困る」
「芹沢さん、あなたも言ったじゃないですか。 躾がいき通ってない故と」
「うう゛っっ…ぜり…グズッ…さわじゃあぁぁんっ」
「土方君」
芹沢は身を屈め、土方の肩に手を置くと耳元に顔を寄せボソッと囁いた。
「君が泣かせるのは、大人の女で布団の上ではないのかね?」
「―――なっ!」
手の力を抜いた土方から、ようやく解放された矢央は痛む尻を庇いながらも素早く永倉の背後に身を隠した。
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