駆け抜けた少女【完】

「バッ! おめぇ、なんで俺をたてにすんだ! 馬鹿っ!!」

「か弱い乙女を匿うのも武士の役目でしょっ!」

「お前のどこがか弱いって?」

「か弱いですよ! 失礼な!」


土方の存在は何処へやら、永倉と矢央の争いが始まる。


そして、土方は芹沢に言いくるめられ渋々自分の席へと戻ったが、矢央を睨みながら何やら企んでいるようで。



その顔は微かに黒い笑みを浮かべていたとか。




「おーい、せっかく嵐は去ったんだ。 そろそろ飲み直そうぜ!」


「「五月蝿い!!」」



沖田とは違った意味で危機感のない原田は、永倉と矢央に無意味な八つ当たりをうけると拗ねた。


「よしよし、左之っち、僕がとことん相手してあげるからね」

大の男の頭を撫でる藤堂も、ようやく復活した。


「おお! へーすけっ!
お前は良い奴だなぁぁぁ!」


腕を顔に当て、大袈裟に感動する原田。


「今頃わかったの?」

「ああ! 腹黒い野郎だと常日頃から思ってたぜ!」


―――カチャリ。

藤堂は腰の刀に手やる。


「左之さん、今日は本当に最後まで付き合ってあげるよ」

ニコッと、猫目が妖しく光る。

その後、原田が倒れるまで酒を浴びさせた藤堂は、最後のとどめに刀の鞘で原田の頭を殴っていたとか。


それを見ていた永倉が、翌朝頭が痛いと訴える原田に「お前、命拾いしたな」と、呆れた言葉をおくり。


矢央に至っては、宴の一件の腹いせに、芹沢の世話に加え一日中土方にこき使われた。









「山南さん、なんか今日は皆さん顔が浮かないですね?」

「沖田君、君わかってて言ってないかな?」

「さて、なんのことでしょう?」

「――ハァ……」

「あっ! 近藤さぁん! 団子が手には入ったんですけど、一緒にどうですかぁ!?」



五月半ばの壬生浪士組屯所。

今はまだ、誰もこの先に起こる新選組を生み出す騒動や悲劇を知る由もない。



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