駆け抜けた少女【完】
つい先日も島原で大暴れした芹沢のせいで、壬生浪士組の評判はだだ下がり。
このまま芹沢にまた暴れられては、会津藩主・松平容保に申し訳ないと土方は仕方なく食い下がった。
本日夜壬生を発つと決まり、土方、近藤は前川邸に戻って来たが、先程から土方は頭を抱えていた。
「あの人の横暴さには呆れるばかりだ」
「うむ、だが今こうして壬生浪士組があるのは芹沢さんのおかげだから邪険にも出来まい」
名ばかりの局長で申し訳ないなと、近藤は小さく頭を下げた。
「よしてくれ、近藤さん。
あんたが頭を下げるのは上のもんだけだ、俺達にじゃねぇや」
「だかな―……まぁ、矢央君は我々が責任を持って連れ帰るから、あまり案ずるな」
「…………」
土方は煙管を口にくわえ、ぷかーっと立ち上がる煙を追う。
「かっつんよ―…」
懐かしい呼び方をする。
昔の近藤の呼び方をする時の土方は、だいたいが本心を語る時……のように、近藤は思えた。
近藤は微笑みを浮かべ「なんだ、歳」と、問うた。
土方は灰溜に煙管を叩きつけると、顎を突き出し言いにくそう視線を泳がせる。
「………お転婆娘を頼んだ」
「ああ、わかったよ」
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