駆け抜けた少女【完】

近藤の隣でうとうととしていた矢央は、話し声でうっすらと瞳をあけると、そこには調査から戻って来たらしい面々がいた。


「住吉楼か、では明朝改めに踏み込むぞ」


調査により問題を起こす浪士二人の潜伏先がわかった。

近藤は、それぞれに指示を出し、その報告をしに芹沢のもとへ向かった。


矢央は襖が閉まる音と同時に、ゆっくり体を起こすと


「良く眠っていたようだな」

と、見知らぬ人物が真横にいたことに驚き一気に眠気が吹っ飛ぶ。


「わっ! だ、誰ですか!?」


長い前髪が片目を隠し、どこか不気味な雰囲気の男。


細身の外見や顔立ちを見て、沖田か藤堂と同年代かと思われた。


「あーっ! 斉藤さんダメですよ! 矢央さん起こしちゃ五月蝿くなるじゃないですかっ!」

「総司、俺は起こしてなどいないぞ?」


沖田が斉藤と言った男は、三番隊隊長を勤める、斉藤一。

天才剣士と言われた沖田と互角に渡り合える剣の達人だ。


ただ目立つことを苦手とするせいで、あまり人前に出ようとはしない性格だった。

なので、近藤一派の斉藤と矢央はこれが初対面となる。



「さいと…う、さん?」

「ん? なんだ、矢央、一と会ったことなかったっけか?」

「ない」


興味津々に斉藤をじっと見上げている矢央に、斉藤はウッと顔を逸らした。


僅かに見える耳は若干赤く、ここにも女子慣れしてない奴がいたか…と、苦手する永倉だった。


永倉はスッと立ち上がると、斉藤に押し迫る矢央の顔面を掌で押し戻し、二人の間にドカッと胡座をかいて座る。



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