駆け抜けた少女【完】
物音がした瞬間、沖田はハッとする。
そして、襖を開けた永倉は、壁に押さえつけられた矢央と、直ぐ傍にいる沖田を見て停止している。
「――なに、やってんだ…」
押し殺したような声が出たのは、数秒後で、沖田はごくっと生唾を飲み込み笑顔を作り振り返った。
「永倉さんこそ、慌ててどうされたのです?」
さりげなく離れる間際、矢央の髪に触れた沖田は、
「あ、矢央さん、糸くずついてましたよ!」
と、誤魔化していた。
内心では焦っていた。
自分がとろうとした行動は、何の意図があってなのか……
何故か矢央から目が離せなくなり、自分の意志に反して勝手に体が動いていた。
―――――何故?
「………力士が、乗り込んできやがった」
「先程の?」
少し棘があるような声でも説明を始めた永倉に沖田は聞き返すと、小さく頷く永倉。
「さっきの力士もいたが、他にもわんさかと」
「どれほどで?」
「ざっと見、二十弱かな」
廊下に出て外の様子を窺う沖田と永倉は、力士達が八角棒を持って「出てこい!出て来ないなら、此処ごとぶっ潰してやる!」と、店前で騒いでいるのを見た。
「厄介な事になるような気がしてたぜ」
「うーむ、さて芹沢さんはどうなされると思います?」
「そりゃ――……」
永倉は、ニッと笑みを浮かべながら親指を立て下を指す。
そこでは、今まさに芹沢達が力士達と乱闘を始めようとしているのがわかり。
「討つ! だろ」
「ですよねぇ。 それでは、永倉さんはどうなされます?」
また、沖田は永倉に問う。
その顔は、先程までの作り笑いではなく本物の笑みがあった。
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